梅雨が明けたばかりの商店街はまだどこか空気に湿り気を感じて肌に纏わりつく感じがいまいち好きになれない。そんなの気持ちなどはつゆしらずでしっかりと前を歩いている田島は楽しそうに時には歓声を上げて商店街を見て歩いている。

「なーなー、、何買うんだ?」
「んとね、頼まれた洗剤をね。もうちょっと先にある薬局屋さん」

 そう言って指差した先には、いつも商店街にはなかった見慣れない笹が飾ってあり思わずはまばたいて見なおした。先日商店街に足を向けた時には確かになかったそれに田島は興味津々で足を進めて近づいていった。も田島に続いて笹へと向かう。

「すっげー!でっけー笹!」
「そっか、もうそろそろ七夕だもんね」

 サラサラと葉が擦れあう音に思わず笹を見上げた。梅雨があけたばかりのどんよりとした空気の中、この空間だけがさらりとしていて心地よかった。

―!」

 田島の声に思わず顔を向けると、笹が飾ってあった店内から田島は出てきた。不思議に思ったは田島に近寄る。

「田島?何してたの?」

 不思議そうなをよそに田島は得意げににししと笑って見せると両手に持っていた紙キレをひらひらと泳がせて見せた。

「短冊!店の人にもらってきた!かこーぜ!」

 話についていけないを横に田島は短冊を貰った時に借りたであろうペンで壁に短冊を押し付けて綴っている。書き終えたのか田島は書き終えた短冊を改めて見直して満足したように頷いた。使い終えたペンをへと差し出す。

「ほら、も書けよ!」
「あ、う、うん」

 勢いで受け取ったペンを持ち直し視線を目の前の短冊と笹に取り付けようとしている田島へと映す。

「ねーねー、田島は何て書いたの?」
「ん?俺はこれ!」

 勢いよく突き出された手の中には色鮮やかな短冊に黒のマジックペンで“甲子園でゆーしょう!!”とお世辞にも綺麗とは言えない字で大きく書いてある。あまりに彼らしいのでは笑みをこぼした。

「田島らしいね」
はなに書くんだ?」
「んーと、田島がそう書くなら私は…」

 覗き込もうとする田島の視線を遮るように自分の腕で壁を作り短冊へとペンを走らせる。口を尖らせて不満を言っている田島へと書き終えた短冊をかざして見せた。

「じゃん!!」

 短冊の真ん中に書かれた文字は女の子らしく少し丸い字で“田島と来年もこうして一緒に居られますように”と書いてあった。短冊の願いを見た田島は不満の声を上げた。

「えー!!俺もと一緒に居たいから俺も書く!」
「でも、田島もう書いちゃったじゃん」
「じゃあ裏に書く!」
「二つも書いたら短冊の効果薄れちゃうんじゃない?」

む ーっと不満げに頬を膨らまして自分の短冊を見つめている田島が可愛くては手を伸ばして田島の頭を撫でた。

「いいじゃん、私が書いたんだから。田島が甲子園で優勝して私もその横に居られたら最高でしょ?」

 少し硬い髪の毛の感触が気持ちよくて拗ねて俯いている田島の頭を撫でていると田島は声を上げて顔を思いっきり上げたのでは驚いて手を退かした。

「そっか!俺、いーこと思いついた!」
「ど、どうしたの?」

 不思議そうなを見て田島はにししっと得意げに輝く笑顔を見せた。

「また来年さ、こうやって二人で短冊書くときに俺が書けばいーじゃん。そうしたらずっと一緒だろ!」

 田島の突然の言葉に驚いただが、彼女の手から短冊を取り自分の短冊と隣り合わせて括りつけている田島を見て気恥ずかしさで頬を染めた。

「田島のくせにいいこと言ってるし…」
「俺のくせにってなんだよー。ほらっ、できた!!」

 田島の背よりも少し高い位置に括りつけた短冊は風をうけてヒラヒラと泳ぎそれに続いてサラサラと笹が擦れる音が耳に届く。

「んじゃ、次は薬局行こうぜ!」
「うん」

 どちらかともなく手を取り合って、笹が飾ってあったお店を後にした。田島に手をひかれながらも少し振り返ったの目には相変わらず大きな笹とたくさんの短冊が飾ってあって今さっき自分達が書いた短冊がどれかわからなかったけれど、田島の言葉とともに飾られた笹は、初めて見たときよりも壮大に見える気がした。




七夕ラプソディー




(梅雨も案外捨てたものじゃないかも ね)