腰とお腹が痛いはずなのにどうしてこうも、体すべてが重く感じるのだろう。は女性なら誰しも経験しているであろう一月に一回は訪れるこの時期には頭を抱えていた。

(誰も好きな人なんて居ないだろうけどさー…)

 幸運なのは学校がない日曜日になったということだろう。今日一日はゆっくりすることを心に決めたは勢いよくベッドに倒れこみ掛け布団を頭まで被る。お腹を冷やさないようにとゆっくりと体を丸める。

(泉、何やってんのかなー)

 今日は部活がないと言っていた同じクラスメイトでもあり、彼氏でもある泉のことを思い枕元に充電して置いてあるを片手で探り当て掴み取る。開いて見ると見慣れた待受け画面が目に移る。メール作成画面を開き何文字か入力するが、すぐに画面を消し携帯電話と閉じる。

(やめた…こんな状態で泉に会っても微妙だし)

 携帯電話を適当に置き大の字になって天井を見つめる。相変わらず全身の気だるさは変わらず、むしろ先ほどよりも酷くなったような気がする。指先ひとつ動かすのだって億劫だ。寝てしまおうと思い目を閉じる。

「馬鹿いずみー」
「馬鹿で悪かったな」

 思わぬ独り言への返事に目を開き、勢いよく起き上がるといつの間にか開けられた扉の目の前に見慣れた人物が立っていた。漆黒の髪に大きな瞳、頬にはソバカスが散りラフなTシャツにパンツは彼の私服なのだろう、何処か着慣れた感じが漂う。

「い、泉!?な、なんでっ」
「おまえんちのおばさんが上がっていいって」
(お母さんの馬鹿…!)

 泉はそんな彼女の様子を気にすることもなく扉を閉め中に入りの横へと腰掛ける。泉の体重を受けたベッドのスプリングが軋む。

「うわ、すっげー顔」
「悪うございましたね」

 この時期の顔色や表情、肌の調子が悪いのは経験上わかっているので泉の視線から逃れるように顔を逸らすと下から大きな瞳に覗き込まれる。

「もしかして具合悪い?」
「え、あー…」
「なんだよ」
「まあ、悪いって言ったら悪いけど、そのー」
「はぁ?」
「いや、まぁ、うん…あの日」

 小さく言葉を濁した彼女の言葉に泉は頬を赤く染め視線を横にずらした。何とも言えない空気に二人は押し黙る。

「…やっぱ、つらい?そーいうの」
「うん、かなり。泉が経験したら耐えられないと思う」
「マジ?」
「マジ」

 真剣な表情のに苦笑を浮かべ泉は色素の薄い髪を伸ばし撫でる。さらりと何束か髪の毛が落ちる。は予想外の泉の行動に目の前に居る彼をまばたいて見直した。

「…どうしたの?泉、めずらしー」
「別に」

 何度か髪を撫でられた腕が下に降りて軽く肩を押される。布団が軽い音を立てて彼女の体を受け止めた。泉がベッドから腰を持ち上げると軽くなったスプリングがまた軋む。

「泉?」

 ベッドから降りてが寝転んでいる顔の近くの床に座ると顔にかかった前髪を手で払う。不思議そうに彼を見つめているの目には泉の姿が映る。

「寝てもいいから。今日は休め」

 額に唇を寄せるとは驚いて泉を見直したがすぐに微笑み小さな声で、ありがとうと呟き瞳を閉じた。最後の一言は泉に聞こえたかはわからないが、彼の手は彼女の髪を撫でていた。



あの日≠いい日?





(生理通に思わず感謝!)