夏特有の熱く、もわっとした風が頬を撫でる。斜めになっている土手を登るのは正直つらいし、すごく暑い。繋がれた手から伝わる汗はどちらのものだろう。離さないようにぎゅっと力を入れると目の前に居る彼もぎゅっと手に力を込める。そんな些細なことがすごく嬉しい。
「ほら、ついたぞ」
「わー!」
土手を登り終えると、今までふいていた風が嘘かのように爽やかな風が吹きつけた。目の前に広がる小川は太陽の光をキラキラと反射していて、あまりの眩しさに目を細める。彼の手を引いて土手を降りていくと、あぶねぇからんな走るなよって困ったような顔で笑って大人しく後をついてきた。
「やっぱり、小川の近くに来ると涼しいね」
「そうだな、風からして違うよな」
笑う花井の顔は夏の日差しを沢山浴びた証拠のように焼けていて笑ったときに見えた歯が白く眩しかった。私は彼の手から離れると履いていた運動靴と靴下を脱ぎ捨てて小川へ向かって歩いていく。ゆっくりと小川の中へ足を浸けると指先からひんやりとした感覚がとても心地よい。
「涼しいー。花井も早くきなよ!」
「いや、俺は…」
「いいからっ、ほら!」
歩くたびに飛び跳ねる水しぶきがスカートに跳ねないように両端を指先で摘んで小川の近くに腰掛けようとしていた花井に近づく。頬を赤くして片手で顔を覆っている彼の手を掴む。
「…おまえ、スカート持ち上げんのやめろ」
「花井のエッチー」
「あのなぁ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ花井が面白くて声を上げて笑うと、彼は深くため息をついて困ったような顔で笑う。彼の本気で嫌がっていないその表情が私は好きだ。しぶしぶといった顔で彼は立ち上がると運動靴と靴下を脱ぎ揃えて置くと私に引っ張られるままに小川へと足を浸す。
「なかなか冷たいな」
「でしょー?気持ちいよねー!」
「おい、あんまりはしゃぐなよ」
「へーき、へー…!?」
彼の手から離れて小川の中ではしゃいでいると、敷き詰められた石を踏み外し世界が傾いて映る。まるで他人事のように転ぶなーと思うと同時に左腕を強く掴まれる感触と、まるで大きな魚が跳ねた時のような大きな音が響いた。
「っ〜」
彼は頭から足のつま先まで全身びしょ濡れなのか、水滴を滴らせながら小川の中に座り込んでいた。もちろん転ぶ寸でに腕を掴まれて支えられた私は花井が転んだ時の水しぶきが少し跳ねただけで濡れていない。
「は、花井大丈夫?!」
「おー、腰打っただけ。いてて」
私が手を差し伸べると大人しく私の手を取り立ち上がる。彼が着ていた黒のTシャツもデニムも水をたっぷりと含んでいてかなり重そうに見える。こう思っちゃいけないんだろうけど、かなり涼しそう。
「ごめんね、支えてくれてありがとう。助かったよ」
「おまえが濡れるよりマシだろ、その…」
「私が濡れたら下着透け透けで花井の目のやり場が困っちゃうもんね」
「おっまえ…だから、そういうのはやめろっつの!!」
真っ赤に染まった彼の手を取ると、小川に浸かったせいか少しひんやりと冷たかった。ブツブツと何か言っている花井に手を引かれて靴が置かれている場所まで二人で歩く。小川から出る時に振り返ると、私と花井がさっきまで居た場所は何事もなかったように水が流れてキラキラと光っている。そんな風景が少し寂しくもあり、心があたたかくなった。
(持ってきていたタオルのほとんどは花井へ)
(また来ようね、って言ったら繋いだ手に力が込められました。)