フッと目を開けると目の前に広がるのは自分の部屋とは異なった天井、視線を逸らしてみると明らかに部屋の内装も異なりカーテンをしている状態で真っ暗な部屋は真夜中を思わせた。そしてベッドの横へと視線を移すと愛しい恋人が規則正しい寝息を立てて自分に腕を回して目を閉じている。
頭に感じる感触は彼の腕の感触でお互いに何も着ていない状態で相手の体温が直接つたわってくる。かけていたシーツを肩まで手繰り寄せて彼の胸元へと顔を寄せるとトクントクンと心音が耳に届く。
阿部の弟は中学の野球部の部活で家には居ない、両親は親戚の家に泊まりで出掛けているので阿部の家には彼一人しかいなかった。明日は日曜日で阿部の野球部の練習も1日休みというスケジュールには心を躍らせた。彼に家に誘われて即答で返事をしてしまったくらいだ。彼の部活が終わるのを待って、二人で一緒に帰りった。
途中でスーパーに寄って夕食の材料を買い阿部の家に帰り夕食を作って二人で食べた。簡単なカレーで済ませてしまったが、それでも阿部はうまいよ、と言っておかわりを三杯もした。
お風呂が沸いたと言えば「二人で入るか?」とニヤリと笑って意地悪を言われ、真っ赤になって首を振るをよそに遠慮するなよ、と言って(は大分抵抗したが)彼女の手を引いて、一緒の湯船に浸かった。
お風呂に入り終わり阿部が欠かさずしているストレッチに付き合って彼の自室に入れば後はすることもなく自然と恋人同士特有の甘い雰囲気になりベッドへと重なった。
阿部が愛用している目覚まし時計を見ると夜中の3時を指していて二時間前まで激しく愛し合っていたことが嘘かのように静まり返っていた。隣で寝ている彼の前髪に触れてみるとサラッとした心地よい感触が手に残る。こうして愛し合った後に夜中に目覚めることは珍しかったがは嬉しさで胸がいっぱいになった。
(こうして隆也の寝顔を見れるのもいいかな…なんてね)
普段眉間に皴をよせたりしている姿からは想像もできないあどけない表情に微笑みながらもサラサラとした感触が気持ちよくて頭を撫でていると阿部の瞼がピクリと動く。
「ん…?」
「あ、ごめんね、起こしちゃった…?」
「ん……今、何時だ?」
「えっとね、まだ三時。寝てて大丈夫だよ」
阿部はシーツを退かすと上半身だけ起こし眠そうに目を擦る。明らかに眠そうなのに起き上がった阿部をは不思議そうに見つめた。
「寝れねぇのか?」
「え…?」
「が起きるなんて珍しいから」
野球部の練習もあって体は疲れきっているはずなのに、まず自身より他人の心配をする阿部の優しさには微笑み彼の背中に腕を回し胸元に顔を埋めた。
そんな彼女を阿部は抱き締め優しく頭を撫でる。
「大丈夫、ちょっと起きちゃっただけだから…ごめんね」
「ん、じゃあ寝るか」
「うん」
彼女の体をいたわるようにゆっくりとベッドに横たえさせて阿部も横になり彼女の肩までシーツをかけてやり腰に腕を回し抱き寄せる。密着した素肌は何よりも温かく目が覚めかけていたの意識をぼんやりとまどろみへと向かわせるのに十分だった。
「ん、おやすみ、隆也…」
「おやすみ。…」
「…?」
言葉を続ける阿部には閉じそうになった瞼を開けて阿部を見上げるとグッとさらに力を込めて抱き締められ阿部の唇が彼女の耳元へと近づいた。
「 」
その言葉は耳元で囁かれなければ何と言っていたかわからないほどの小さな声で思わずまばたいて見なおした。だが阿部の瞳は今や完全に閉じられていて小さく規則正しい寝息が聞こえてくる。寝ぼけていったのかもしれない。それでも彼女にとってはこの上なく幸せな言葉だった。
(幸せすぎて涙が出そうになった)