太陽がジリジリとアスファルトを焼き付けていて咽返る程に暑い7月には額に浮いている汗を手の甲で拭った。じっとりと背中にも汗をかいていてTシャツが張り付いているのが気持ち悪い。
目の前に広がっている金網の目の前では野球部がまるで暑さを感じさせない動きで練習をしている。カキーンというバッドが球に当たる音は何処か爽快感を感じさせては目を閉じた。
視覚が遮られると聴覚が良く働きバッドが球に当たる音や風によって木々の葉っぱが擦れる音、人の足音などが良く聞こえる。
「?」
名前を呼ばれて目を開くと日差しの眩しさに目を細めるが、改めて金網越しに立っている人物を捕らえる。
「阿部君」
夜を思わせる髪の色に少し下がった目尻の中にある瞳は意志の強さを感じさせ、ガッチリとした肩のラインから真っ白なユニフォームが目に眩しく改めて異性だと感じさせられる。
休憩中なのか阿部はペットボトルを片手に持って、不思議そうにのことを見つめた。
「こんなとこで何やってんの?」
「私の家この近くだから散歩がてらに」
「へー、家近いんだ」
「うん、すぐそこだよ」
関心があるのかないのか阿部は返事をすることもなくペットボトルの中に入っている液体を喉に通す。ごくりと喉が上下に動いたのが見えた。
「練習気合入ってるね」
「ああ、夏大が近いからな」
阿部は視線をからグラウンドへと逸らし眩しそうに目を細める。も彼から視線を逸らし同じようにグランドを見つめた。
「頑張ってね」
「ああ、サンキュ」
そう言ってかすかに微笑んだ阿部には思わずまばたいて見なおした。満面の笑みとまではいかない表情だったがそれでもガラリと印象が変わった。
「阿部ー!」と遠くから声が聞こえ、そちらに目をやるとチームメイトが手を振って呼んでいた。阿部は手を上げておー!と返事をし額に浮かんでいる汗をユニフォームをたくし上げて拭った。チラッと見えた額は狭かった。
「じゃあ俺行くわ」
「うん、じゃあね」
別れの挨拶を聞く前にすでに阿部はグラウンドへと向かって走っていてヒラヒラと後ろ手に手を振っているのがの目に小さく移った。遠くでチームメイトと話をしている阿部を見ては考える。
(野球に対してはキラキラと光っていてあんな表情を見せるんだ)